目次 水の周辺・・・3 憎悪の行き場・・・27 ボイスの印象・・・45
水の周辺
坂から泳ぎ着く、水着の、ぐしょぐしょ
濡れそぼった不安、いや
とうにゆき過ぎている、昼の船着場に、
鳥肌も立つ、
思わず驚いてしまう、
すれ違ったそれと、
いきなりきしりたってしまう、誰もが
言わなかったことだ、訳せば
「感情の、亡失。」という巨大な看板の
横文字が剥げかかっている、
オフィスまでの広場は平たく、ひらめの眼で
眠っている、白くまくれているかしょは、
犬達がしきりにゆき交う、
ひっきりなしに、くしゃみをする、
時季ではない、わかっている、
脱ぐ時に乳房までもが固まっていて、
全身がくぎ、のように折れ曲がった、
おがくずみたいにアスファルトが、
削れている所があり、あ、あそこ
と思う、
次第に晒されていく体内、
在りと在る、あけては閉じる体内、
目前に解体された宿舎の瓦礫達、似ている
ひらめ、ひらめ、め、
こんなもの、こんなもの、と言い続けてきた、
ぶちぎって、棒のように浮かびたかった、
入りしなに、ぼむっと窓枠で打った、
激しく内部で血が、溜まっていく音、が
聞こえてきた、(痛みは一週間、)
過ぎれば固まりになり、
やがてぽろり、とぬけおちる、そのくぼみにも、
肉がのっていき、また、肌のつやも
若さが吹き荒れていく路として、増すだろう
チャイムがなり、目礼を幾つも重ね、
坐ると、はじめてのように
水草の匂いが漂ってくる
もぐさの匂い
ジォットーの絵か、
さもなくば、フェルメール、踏みしだいて、
その光線を、模写する、
そして、くり貫き、窓から放り投げる、
男は、腹痛のため、
下腹部にあらん限りの罵声を投げつける、
窓から見える。草原がしなって揺れる、
と、口に出す。それからパンツ一枚、に、
なって激しく削り出す、
窓から見える、草原に光って揺れる、と、
飛び出すが、着地したショーゲキ、で、
パンツのでんぶからいきおい余って、
漏れ出す愛がみるみるびだびだにパンツ
染め上げ太ももしたたって、
キラリキラリと、光りはじめている、
にもかかわらず、
草原の、輝きっ、いっちょーらの、
滅裂!
そうして、満面、水をたたえた青、の、
波の絵に、ザンブと飛び込むが、
フェルメールの光は、横手にひらひら、
揺れているばかりだ、
水面に浮かぶ汚物たちのあわいで、
あんなに懐かしそうに手振っている、
一生懸命、めっ、
あわててケツの穴を押さえている、
一生懸命、めっ、
しかし、時はたつはずもないから、
もぐさのような匂いのたちこめるこの部屋
では、さっきから「私」が、
肴をしゃぶりつつ、
一頁、画集をひらいているところだ、
その絵の、草原の陰で、
おこっていることなど、
知らぬ。
# by yamaiku1948 | 2009-01-05 18:33 | 山本育夫の詩集